ある程度キャッキャ言えて、おいしくお酒を飲んだりできたら、十分友達なんじゃないかと思います ー山田ルイ53世
山田 ただ、いない人は、どうやって作ればいいんですか? 40歳になってから新しい友達を作るのは、結構難しい。「友達になろうよ」と言われたら、少し引いちゃいませんか?
田中 何かの悪い勧誘かなと思います。新しく作るのはすごく難しいです。
そうなると、趣味というのは一つきっかけになりませんか。スポーツジムとか習い事とか、定期的に人と会うことを作って、だんだん友達になっていく。
先ほどの働き過ぎとつながるのですが、「平日昼間問題」というのが男性学ではあります。平日の昼間に、学校卒業以降定年前までの男性が街をうろうろしていると、それだけで怪しく見えるという問題なんです。
例えば、泣いている子どもの手を引っ張っていても、お母さんだったら「子育て大変だな」で済むと思うのですが、おじさんだったら、あれ?!となる。
実際、男性で育児休業を取った方が、子どもを連れて児童館に行っても、お母さんしかいないとか、児童館の職員がパパが来たとびっくりしてしまうとか。いざ休みを取っても、居心地よく過ごせない。
山田 それなら仕事をしている方がええわ、となりがちですよね。確かに公園で中年の男性が子どもと遊んでいたら、違和感があります。
田中 何なのかな?という不安を、周りも抱いてしまう可能性があります。
これは先ほどの話とつながっていて、働いているのが普通だから、働いていないなんておかしいんじゃないの、という偏見になってしまうわけです。
男爵も仕事柄、平日の昼間などでも空いている場合がありますよね。
山田 あります。確かにそういうことを気にして、外に出づらいですね。
僕の場合は、顔が割れていて、「暇なんかな」と思われるのとちゃうかなと(笑)。子どもを連れていたら、「奥さん働かせて、家で子どもの面倒見ているのかな」と思われるのとちゃうかな、というのはありますね。
全部自分の心の中で起こっていることではありますが。
田中 いま、男爵がおっしゃったことはすごい重要で、こういう社会のルールは、内面化されています。だから、人に言われないけれど「そう思われているのではないかな」と自分で規制していくんです。それだけの罪悪感を抱いてしまうということは、そのルールがこの社会の中ですごく強力に作用しているということです。その結果、働いている方が男の人も気が楽だし、周りも安心するという構造が完成してしまうわけなんです。
でも、そうやって仕事を続けていって、友達もいないし趣味もないまま定年を迎え、その後に何もやることがないという人がすごく多いんですよ。
山田 僕もいま、日によっては若干、定年気分のときがありますから(笑)。
趣味、特技はホンマにないんです。2008年、髭男爵がアホほど売れたときに比べたら全然暇やから、正直、オフで家にいるときもあるんです。なので、その3点が全部ぎゅっと揃うと、ワンデイ定年みたいな気持ちになるときがあるんですよね。
田中 定年退職者の方々に聞いたら、定年すると「キョウヨウ」と「キョウイク」が大事だと言われました。どういう意味かというと、「今日用がある」「今日行くところがある」ということなんです。追い詰められているんですね。
これは、男性からするとハメられている気がします。現役中は、働いていないと周りから不安がられるから一生懸命働いて、ルールにのっとって頑張ってきたのですけれど、定年したら急にハシゴを外されて。でも、「友達もいなければ趣味もないのは、あんたのせいでしょう」みたいな雰囲気もちょっとあるわけです。
山田 確かにちょっとハメられた感ありますよね。
田中 だから、友達の作り方や趣味の作り方を少し考えたいですよね。
ただ、仕事が絡んでしまうと、仕事のメリット、デメリットでお付き合いいただいているのかな、といった感情が入ってしまい、素直に友達と思えないというか…。
山田 それは、友達のハードルを若干上げすぎているという気もします。仕事上のつき合いで、例えば、「この人と付き合うたら、こういう仕事くるんちゃうか」、「こういう話聞けるんちゃうか」という、若干邪な気持ちがあるのかなと思う相手でも、別に友達でいいじゃないの、と思いますけどね。
ある程度キッキャ言えて、おいしく酒を飲んだりできたら、十分友達なんじゃないかなと思います。
田中 すごくいい発想ですね。確かに無二の親友を見つけろということではないですから。友達のハードルを少し下げていく、ということですね。
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ユーモアを不謹慎だと封じること、「トータルとしての現実」に近づけない