写真提供フィンランドセンター、撮影 Ryu Furusawa
男と女が仲良く生きるために
いったいどのようにすれば女性の地位が向上して、しっかりと女性も仕事ができ、なおかつ男性と仲良くしていくことができるのでしょうか。
最近、日本の男性はとても優しくなっています。家事を手伝わない、子育てをしないという人は結婚すらできないといわれているようです。フルタイムで働いていても奥さんを支えて一生懸命やっていますが、それでも十分ではないと大変な批判を浴びてしまうことがあります。
すべての原因が日本の長時間労働にあることは、周知のことです。女性の不幸せさも、男性の大変さも、この日本の長時間労働を何とかしないとスカンジナビアの皆さんのようなレベルに行きつくことはできないので、これは女性だけではなく労働界全体の問題です。
それを分かった上でも、なお、私は、あまり男性をいじめてはいけないと思うのです。
私は、女性が妊娠、出産、子どもを育てることにおいて、どのように健康に暮らせるのかということを研究課題にしてきました。ところが、はっと気が付くと、世界のほんの一部の地域を除いて、すべての女性の平均余命は男性より高く、すべての病気の罹患率は男性より低く、病院に行く回数も女性のほうが多く、女性のほうがすべての健康指標において男性に勝っています。
男性というのはとても大変な状況にあるということです。極小未熟児、1000グラムに足りない小さい赤ちゃんが生まれてくると、女の子だと生き延びる可能性が圧倒的に高く、男の子だと低い。子どもを育てた方はご存知だと思いますが、男の子のほうがよく病気をするし、手がかかります。女の子のほうが、男の子と比べると母の手を煩わすことが少ない。男性のほうが生物学的に明らかに弱いのです。
男性のほうが生物学的に元々弱いことに加え、タバコやアルコール、仕事上のストレス、働き方といったストレスに、女性よりもより多くさらされているいま、「男性の健康向上」はなかなか難しそうです。
女性が子どもを産むことによって、それがマイナスになり仕事を数年休まなければならないという問題は、よくいわれています。が、逆にいえば女性のほうが、リプロラクティブ・ライフ(生と生殖に関する健康と権利)においては、仕事を離れて休める機会に恵まれているということでもあります。現代の男性には、このようなことはもちろん許されていません。ですから、私たちが本気で男性の保健に取り組もうとすると、この社会の労働あるいはこの社会の在り方、この社会をベースにしている経済的な仕組みそのものと対峙しなければ語れない、ということになってしまいます。
男性に健康的に生きていただくためには、やはり、お互いを慈しみ合うことが必要だと思います。家でいつも奥さんに怒られているばかりで女性に愛されないと、男性というのは簡単に具合が悪くなってしまいがちなのだということを、私たちは理解しなければいけないのではないかと思います。
私が申し上げたいのは、女性の地位の向上および女性の社会進出、社会共同参画は大変重要なことです。ところが、それと私的な領域で男と女が仲よくするということは、直結はしないのだということです。そこには、何らかの工夫が必要なのではないかと、考えるのです。
〈了〉
「女性として、母として生きる―フィンランドと日本 それぞれの姿―」(2015年6月6日開催、主催フィンランドセンター)より、三砂ちづるさんの講演を採録。
イベントの様子は日経DUALに取材いただきました。「母に優しい国」フィンランド女性の光と影 もぜひご覧ください。