男女の地位と仲の良さの関係

私は、公的な領域に類する男女共同参画や女性の地位向上と、家族やカップルの仲のよいということは、実はあまり関係がないのではないかと思っています。
私の専門は母子保健であり、国際保健の分野にも携わってきました。この国際保健は、開発途上国の貧困や格差のある国の母子保健の状況を改善しようというもので、私は15年ほど、ブラジルをはじめ、カンボジア、アルメニア、マダガスカル、コロンビア、グァテマラなど様々な国で仕事をしてきました。たくさんの友人たちが、いまもこのような開発途上国で仕事をして帰ってきます。
先日、スーダンで母子保健の仕事をしていた日本の女性と話をする機会がありました。
みなさんもご存知のように、スーダンは女性の地位が大変低く、母親指標(Mother’s Index)は146位です。アフリカのいくつかの国には、女性器切除(FGM:Female Genital Mutilation)という風習があります。FGMにはいくつかのレベルがあり、クリトリスだけ切ってしまうもの、クリトリスや小陰唇などすべて女性外性器を切って縫い、経血と尿が通る穴だけを残すものなどがあり、スーダンで行われているのは一番激しいレベルのFGMだそうです。
幼い子どもに切って縫って穴だけ開ける、そのことによる精神的な打撃と肉体的な危険については、もちろん言うまでもありません。さらに、結婚して性行為をするときには、夫がそこを切ることになっていて、それが男性になるための儀礼といわれているそうです。
子どもを産むときも自然な出産というものはあり得ません。FGMをしている国では、必ず、切って、産んで、また縫うことをしなければならず、当然、大変危険です。
私の友人はもちろん、スーダンで一緒に働いていた人たちもFGMに反対ですが、都市部以外ではなかなか情報がいき渡らず、FGMがまだ100%に近い地域も多いと彼女は言っていました。
私たちはこういう話を聞くとゾッとして、なんてひどい女性蔑視で女性抑圧の国なのだと思います。もちろんこのようなことが許されてよいわけはありません。

しかし、スーダンから帰ってきた私の友人は、「女性たちは本当に力強い」、そして、「男と女が本当に仲がいい」と言うのです。
スーダンでは新婚旅行は1カ月ぐらい行くのだそうです。イスラム教の国で、お互いにあまり顔も知らずに結婚しますから、1カ月間の休みをとり、肉体的にも精神的にも二人がお互いを知り合うための新婚旅行なのだそうです。
新婚旅行のメッカといわれるリゾート地がスーダンにもあります。私の友人がそこを訪れた時、男女がとても仲よさそうにニコニコして手を取り合って歩いている。そして、ホテルに泊まると、夜中にすごい叫び声が聞こえるそうです。それは男の人が切っているかららしいのですが、それにも関わらず、リゾート地を散歩する男女はとても幸せそうで、「いったいこれはどういうことなのか分からない」と彼女は言うのです。
スーダンの男性は女性をとても大切にしているし、女性は女たちで集まるとすぐ猥談ばかりして、男の人たちが大好きなのだそうです。スーダンでは、女性も教育を受けると仕事をすることができます。男性が家族を支えることになっているので、女性は働いたら働いた分だけそれは自分の収入になるので、大変気分がいいそうです。
私の友人は、伝統的産婆(TBA:Traditional Birth Attendant)のトレーニングをスーダンの女性たちに行っています。彼女たちはワークショップを終えると叫び声をあげて喜んで、歌って踊るのだそうです。
「FGMをしている人たちなのに、なぜこんなにエネルギーがあるのか。女性たちは抑圧されて地位も低いけれど、なぜこんなに生き生きとエネルギーに満ちていることが可能なのかよく分からない」と、彼女は言います。
そして、日本に帰ってくると、「日本の男と女の状態は、なんだか砂漠のように見える」と。日本には、もちろんFGMもないし、母親指標(Mother’s Index)もフィンランドほどではないにせよそれほど悪くないのに、女性の生き生きした様子もなく、男と女の仲もよくない。なんだかがっくりしてしまう、と言うのです。
私は、もちろんFGMやスーダンの女性抑圧の状況を肯定しているわけでは決してありません。これは人道上許されないことであり、国際社会においても、もっと理解されるべきです。
けれども、男女の地位と男女の仲のよさは、実は直接は関係していないのではないか、というのが私の友人の問題提起なのです。

 

TAT_2608セミナーでのパネルディスカッション風景 エイヤ・セボンさん (フィンランド ユヴァスキュラ大学教育学部 教育学部長)と三砂ちづるさん 写真提供フィンランドセンター、撮影 Ryu Furusawa