TAT_25462015年6月、フィンランドセンター主催によるセミナー「女性として、母として生きる―フィンランドと日本 それぞれの姿―」が開催されました。フィンランドと日本の女性のライフスタイルや子育てのあり方を通して、仕事と家庭の両立を私たちはどのように捉えればいいのか。フィンランドと日本のスピーカーが、これからの女性の生き方ついて意見を交わし、会場からもたくさんの質問がありました。
この採録は、スピーカーのお一人であった津田塾大学国際関係学科教授 三砂ちづるさんの講演をまとめたものです。女性の地位が向上し男女共同参画が進む中、彼女たちの家庭は幸せなのか、現代の日本の女性が抱えている問題を提起しました。


写真提供フィンランドセンター、撮影 Ryu Furusawa


 

三砂ちづる 今日は、現代の女性が家庭や職場で抱えている問題についてお話ししたいと思います。

先ほど、セーブ・ザ・チルドレンが発表した「2015年母親指標(Mother’s Index)」によると、日本の順位は32位と先進国でありながら非常に低い、といった話題が出ました。これは、職場において女性の上司の割合が低いことや女性議員の数が少ないことに起因しますが、女性の健康状況や教育状況では、日本はいつもトップクラスです。
私たちは、これからも北欧に学んでいかなければならないことばかりですが、フィンランドの人口は550万人ほど、私が育った兵庫県とだいたい同じです。1億人を超える人口を抱える日本では、なかなか思うようにいかないこともたくさんあります。


私たちの家庭は、本当に幸せになのか

日本の女性のことを考えるときに、私の祖母の世代のことを考えないわけにはいきません。
私の祖母は、山口県の田舎でたくさんの子どもを育てて朝から晩まで働く母親でした。こうした母親の姿はどこの国でも同じだったと思います。
当時は便利な電化製品は何もありませんので、かまどから火をおこして家族のために食事をつくっていました。祖母の世代は、着物を季節ごとに全部自分でほどいて直線の布に戻し、洗い張りをして季節ごとに縫い直すということを、家族すべての人間のために行っていたのです。

こんなに忙しいにもかかわらず、子どもが生まれたと聞けば、車もないのに山をいくつも越えて手伝いに行くなど非常に働き者でした。「本当に忙しい、忙しい」と言っていたことを思い出します。

それから2世代がすぎ、私たちの時代になると、女性も教育を受けることが当たり前になりました。何よりも、多くの家事労働が電化され、様々なサービスが増え、医療状況もよくなりました。
「女性たちは、家事も楽になって時間ができ、もっとゆったり暮らせるようになっただろう。」祖母の世代はこのように思っているかもしれませんが、あにはからんや、いまも女性たちはいつも忙しく、家庭の中でも本当に大変な思いをしています。

よく考えてみると、何が大変なのかよく分かりません。家事もずいぶん楽になっているはずですし、買い物も必要ならば買って届けてくれるサービスがあります。楽になったはずなのに、なぜか家でずっと忙しい。
忙しい私を助けてくれないから、夫に対してもとても腹が立ちます。「私だけがこんなに忙しくて、どうしてあなたは手伝ってくれないの?」と、どうしても機嫌が悪くなります。
「フィンランドやスカンジナビアの男性は、もっともっと家事を手伝っているわよ」と、家で言っている人もたくさんいると思います。私たちにとって北欧は、憧れでありモデルですから。

私たちの生活は、2世代前と比べて本当に幸せになっているのでしょうか。実は少し疑問です。
仕事も子育ても忙しい。仕事を辞めてしまうと、辞めたという罪悪感に苛まれるし、子どもを産むことを諦めてしまうと、やはりそれも後悔のもとになります。
どうも日本の女性は、こんなに教育も進んで様々な機会を与えられるようになったのに、あまり幸せになっていないようだ、といえないでしょうか。
家庭の中で男女の仲がいい、もちろん男と男でも女と女でもいいのですが、カップルは大変親密で仲良くあってほしい、それが私たちの幸せの源だとも思います。
けれども、どうも家事や子育ての分業という課題が二人の間に入ることによって、日本の男女はあまり仲がよくない。「うちは、すごくうまくいっています」と言える人はあまりいない。
家庭でどのように暮らしていけばいいのか実はよく分からない、というのが多くの日本女性の感想ではないかと思います。